GLP1タキフィラキシーについて。その1

GLP1タキフィラキシーとは、なんでしょう?

 

GLP1.comダイエットプラクティス (以下、GLP1.comDPと略します)、の、参加者からの代表的な質問です。とても良い質問なので、お答えしたいと思います。

 

まず、「タキフィラキシー」とは、薬を反復投与しているうちに、薬が急速に効果を失う場合をさしていう医学用語です。一般的には、効果がなくなる、ということを意味します。ですから、GLP1タキフィラキシーと、言われたら、GLP1の抗肥満作用が弱ってしまのではないか、と考え、質問されるのは、しごく当然な質問です。

 

私たち、糖尿病専門医も、GLP1の注射薬、バイエッタや、ビクトーザ、が発売された時、GLP1タキフィラキシーが、ビクトーザには強くて、バイエッタには弱い、という説明をされ、であるから、ビクトーザのほうが、吐き気が持続する事は少なく継続しやすい、という説明を製薬メーカーから受けたものでした。

 

ちょうどその頃、私と、いわゆる当時、KOL (key opinion leader)と言われていた3人の医師(今では、そのお二人は教授。東京のS教授。金沢のT教授。もうおひとりは東京の神田にある超有名病院の糖尿病代謝内分泌科:I先生)が、サノフィ社からパリに招待をうけ、世界のGLP1サミット、に招待参加させてもらう機会がありました。私を含めて4名の日本医師は、なんと、昼からワインを飲みながら聴講し、パネルディスカッションをする、という、とてもHappyで、日本ではありえないけど、でも、パリでは普通の「ワイン飲みながらの国際会議」に参加し、その時にでも、世界中から集められたトップレベルの糖尿病専門医の間で、この「GLP1タキフィラキシー」を、どう捉えるのか、という、超グローバルで、専門的な議論がなされたものでした。アルコールが回っていたおかげというか、とても、奇妙な体験だったので、その時の記憶は、よく焼き付いて覚えてます。

 

確かに、一般的には、タキフィラキシーは、薬剤の効果が弱まることですが、こと、GLP1について言えば、薬剤の副作用である、胃排泄速度の遅延によっておこる「悪心、嘔吐」などの副作用が軽減することの意味に限定して、用いられていたものでした。

 

肥満が多く、逆流性食道炎が多い欧米人においては、GLP1が高濃度になり、悪心、嘔吐が起こる事は、逆流性食道炎の悪化につながり、GLP1の作用としては悪い作用なので、その悪い作用が、時間とともに消えることは、薬剤としては、「望ましい」作用と考えられ、あえて、GLP1タキフィラキシーがあることは糖尿病治療においては、望ましいのか、どうか、という事象についての「議論」がなされたわけです。

GLP1タキフィラキシーについて、その2.

ですが、私たち日本の医師、4名には、そういう考え方は、その当時ですら、違和感を覚えるものでした。もしかしたら、製薬メーカーが、そういう考え方をするようにと、つまり、本来、副作用である部分が消えて、良い作用だけ残る都合のよい薬剤であることを強調するために、この用語は意図的に造語されたのではないか、とすら疑ったくらいでした。

 

パネルディスカッションの順番が回ってくる間、GLP1注射の問題点について、各世界のエリアごとに問題提起しなさい、という課題を課せられてきました。どんどん各国が発表するなかで、この「GLP1タキフィラキシーは望ましいこと」というコンセプトがあったためか、他の国からは、ひとつも、悪心、嘔吐が強いことが、問題として議論されなくなっていました。

 

結局、私たち日本チームの番になった時、日本としては、もともと民族がらか、ALDH2遺伝子多型のせいなのか、お酒をのむと、悪心、嘔吐が強い民族であるという背景もあるせいなのか、GLP1タキフィラキシーを、そのままの、副作用だけが減弱し、効果は持続する、という、コンセプトには、少しだけ反対します、やっぱり、ちょっとした、悪心、嘔吐があれば、高濃度のGLP1注射は、うけいれがたいものです、と反論をしました。

 

どうして、そういう、日本だけが孤立した立場になったかというと、実は社会的背景もあります。日本では、ビクトーザの至適投与量が、欧米のように、1.8mgではなく、半量の、0.9mgであったからなのです。従って、0.9mg以上の高用量のGLP1注射ですら、最大、受け入れ幅の限界であるのに、より多くの投薬をして、そうしても、悪心、嘔吐の副作用が消えれば、それでよし、という実感は、わかなかったという、背景もあったのでした。

 

結局、その、グローバルなGLP1サミットでの、結論のところに、日本だけは、以前として、「悪心、嘔吐が強い」という問題が、プロジェクターに映し出されて、他の国の糖尿病専門医の結論とは、異なる意見が、掲示されました。200名ほどいた、世界中の糖尿病専門医からは、「えっ」という不思議なまなざしで、みられました。

 

おそらく、それは、ビクトーザの発売前後、ですから、2010年頃のことだったと思います。(詳しい年月日は忘れました。すみません。ブログですから、許してください。)

 

ですが、その当時の日本では、ビクトーザは、ビクトーザ単剤か、ビクトーザとSU剤との併用の、2つの方法しか、投与法が許可されておらず、特に、ビクトーザとSU剤とを併用すると、就寝前に、極度の空腹感に襲われて、結局、寝る前に食べてしまって、血糖コントロールができない、という臨床的な課題も、つきつけられていた当時の頃だったように思います。

GLP1タキフィラキシーについて、その3

GLP1タキフィラキシーについて、特に、糖尿病治療薬として、考えた場合、この「悪心、嘔吐」が減弱するということは、かえって、空腹感を増すことに繋がるということの意義を、世界に論文として、残すのは、価値があるのではないか、と考えて、英語の論文を作り、医学雑誌にも投稿し、論文になっています。

 

Basal-Supported Oral Therapy with Sitagliptin Counteracts Rebound Hyperglycemia Caused by GLP-1 Tachyphylaxis. Meguro S, Kawai T, Matsuhashi T, Sano M, Fukuda K, Itoh H, Suzuki Y Int J Endocrinol. 2014;2014:927317. doi: 10.1155/2014/927317. Epub 2014 Mar 11.

 

この論文のlast authorは、私ですが、この中に、しっかりと、GLP1タキフィラキシーが起こることは、必ずしも、GLP1治療において、望ましいことばかりではない、かえって、DPP4阻害剤のほうが、優秀なくらいだ、という論調で、まとめた論文でした。

 

この論文が発表された、2014年においては、この私の主張は、ビクトーザを販売しているノボノルディスク社も知るところとなり、ました。なぜなら、いっせいに、私の外来から、ビクトーザを処方している患者さんがいなくなったからです。その数、たしか、99名前後だったように記憶しています。

 

ビクトーザは高価な薬剤でしたから、一斉に、ビクトーザから、当時、話題だった、DPP4阻害剤や、次につづく、ビデュリオンへの切り替えは、ノボノルディスク社にとっても、大きな痛手だったのかもしれません。しかし、その頃には、ビクトーザは、SU剤以外の薬剤との併用も可能となり、とくに、メトフォルミンとビクトーザとの併用によって、悪心、嘔吐が継続するケースも増え、しだいに、GLP1タキフィラキシーに対しての、考え方、感じ方は、欧米と似たような考え方になっていったわけです。

 

というのは、欧米では、糖尿病の治療薬の基本薬といえば、メトフォルミン、でしたし、今でも、そうです。そして、メトフォルミン自体が、GLP1濃度を高めるだけでなく、ビクトーザなどの効果を強調させるものだった薬剤だったのです。その2つの薬剤の併用が可能になったことで、ビクトーザ、プラス、メトフォルミン、という処方が可能になり、そうなると、悪心、嘔吐は、以前より、もっと「悪者」に思えてくる処方術になってしまったわけです。

 

こうなってくると、それまで、GLP1タキフィラキシーの定義に、製薬メーカーの意図的な意思があるという指摘が、必ずしも、あたらなくなってきました。やはり、欧米のように、GLP1治療においては、GLP1の生理的濃度は維持しつつも、「悪心、嘔吐」などの副作用が軽減することだけを、もってして、「GLP1タキフィラキシーは、GLP1治療においては、良い現象」という意見に、賛成せざるを得なくなりました。

GLP1タキフィラキシーについて、その4

こうしたGLP1タキフィラキシーについての議論において、
分岐点となる論文が発表されたのは、くしくも、私の論文が発表された翌年、2015年のことでした。

 

それが、

 

A Randomized, Controlled Trial of 3.0 mg of Liraglutide in Weight Management.
Pi-Sunyer X, Astrup A, et al. 
N Engl J Med. 2015 Jul 2;373(1):11-22. doi: 10.1056/NEJMoa1411892.

 

というGLP1.comのサイトで、下段に日本語翻訳をしてある論文のことです。

 

結局、ビクトーザは、GLP1タキフィラキシーがあるがために、どんどん増量ができる、優れた、良い薬剤である。という結論にみちびかれます。

 

そして、そのタキフィラキシーを利用して、高用量まで、つまり、1日量にして、3mgまで、増量していっても、血糖をさげるという効果は維持でき、しかも、糖尿病の発症予防という早期からの投与にも適しており、さらに、体重を減らす、ウエイト管理ができる薬剤になりえる、という主張の論文だったわけです。

 

この論文は物議をかもし、様々な意見がでました。ですが、結局、この結論を、違う、という反対意見は、少数派になりました。そして、ノボノルディスク社は、他のGLP1受容体作動薬とは異なり、唯一、抗肥満に利用できる、GLP1タキフィラキシーを応用できる薬剤、ビクトーザ、をもつ、知名度の高い会社として、再評価されることになったわけです。

 

ビクトーザは、糖尿病の治療薬の商品名だったので、あえて、それを、サクセンダという別の商品名にし、3.0mgまでの、高用量投与を可能にする薬剤を市場に出すことを発表したのが、たしか、2017年の欧州糖尿病学会での発表だったかと思います。会場は発表の後、スタンディングオベーションで、欧米の医師たちは、こぞって大きな鳴り止まぬ拍手をしてました。(年次に多少のずれがあるのは、お許しくださいね。ブログなので。)

 

結局、こうした経緯をもって、私たち、日本の糖尿病専門医も、ビクトーザにかぎっていえば、GLP1タキフィラキシーは望ましい現象である、という事実をうけいれざるをえなくなったという歴史があります。

 

このように、私たち、「糖尿病専門医」でさえも、時に、この「GLP1タキフィラキシー」という用語の正しい使い方(??)を間違うこともあるくらいで、一般の、GLP1ダイエットを、これから、行おうとしている受診者の皆様が理解に苦しむのは当然のことだろうと思います。

 

代表的な質問には、短く回答しようと思いました。ですが、私の過去の論文が学問的に否定されたという悔しさも含めて書いていたら、その4,にまで、なってしまっていました。また、次の外来を受診される時には、もっと、コンパクトに簡潔に説明させていただきます。長文で、ごめんなさい。  

 

(おそらく、続きはないと思うけど。でも、ブログですから、その5,も、将来、書くかもしれません。笑)